昭子は自分の事でありながら、談話は二人の蚊帳の外に置かれていることを見てとり、
そっと部屋の中を見渡す。何よりも目の前のグランドピアノ。
初めて見るその大きさといい、真っ黒な色といい、自分がこれまで慣れ親しんできたオルガンとは
あまりにもの違いに異様さを抱く。しかし“触ってみたい”、その昭子の好奇心を、
せい先生は見取られたのか、静子との会話に区切りがついた。と見計られるや
「昭子ちゃん、あなたいろんな曲が弾けるんてね。今弾ける曲、何でもいいから先生に聞かせて...」
意想外な先生の言葉。はにかみながらも触ってみたかった思いも手伝い、昭子は得意気に弾き始めた。
鍵盤の並びは同じでも大きさはオルガンと違い、弾き始めてすぐその感触に戸惑いを抱く。
しかし、こどもであることの柔軟さに助けられ、昭子は歌心の赴くまま弾き流した。
途中、忘れ思い起こし、とつとつとした弾きぶりもあったが、
せい先生は「あらー上手」と褒めそやした。
やる気をそそられた昭子。渡された楽譜を一時も早く音にしてみたい、
そんな意欲にかられ家路を急ぐ。
昭子がオルガン好きだったように、服部せい先生も、とにかくピアノ好きな人で、
47歳にして独身を貫かれるも、そのことが起因しておられるらしかった。
奏法は当時日本のピアノ界では知る人ぞ知る、大阪の金沢ピアノ塾で学ばれ、
今尚、月を置き通われているそうだった。
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