ピアノ前の椅子に腰掛ける昭子。譜面台に置かれた教則本をせい先生は広げ
「26番まで弾いてきてるってことは、お母さんに習ったにしても、昭子ちゃん、
楽譜かなり読めるんだってことだし、楽典もそれなりに解ってるってことなんよね。
本の最初に書かれているちょっとした楽典なんか説明しなくっても大丈夫なんよね。
とにかくさらってきたところをまずは弾いてもらいましょうか」
昭子は楽譜を、鍵盤を、としっかり見つめ、先生の前で初めて教則本にもとづき弾く。
いつもにない緊張を覚えていた。
ドレドレドー。ドレミドレミドー。…………。
昭子にとって譜面に沿い弾くことの難しさは無い。むしろ簡単なことですらあった。
これまで母から教わった気安さと違い、せい先生というれっきとした指導者のレッスンを受ける。
そのけじめを意識してのことであった。
瞬く間にその左右の打鍵練習の部分を弾き終えた昭子。
せい先生は言う。「よく弾けたんだけど、姿勢に気をつけんとね。
この前聞かせてもらった時にもそうだったんだけど、昭子ちゃん前のめりになり過ぎる癖があって、
そういった姿勢では手を自由に使えないことから、難しい曲が出てきて弾けなくなるんよね。
今から気を付けて直さんとね」
そう言ってせい先生は立ち上がり、昭子の額と背中に手をあて、背筋を伸ばすよう言いきかせた。
「姿勢なんだけど、昭子ちゃんは背中を丸めぎみに覆い被さるように弾いてるんよね。
しかし、そうではなく、背筋はもう少し伸ばし腰から上の上体が自由になるように椅子の高さも合わせ、
手、特に手首から肘にかけては鍵盤の上面と平行くらいね。
指は卵を掌に包み持つような形に指先を鍵盤の上にのせる」
そう言いつつ、昭子の手首から甲を掴み持ち、
次に胸と背筋を掌で伸ばさせるようにし、
(こうするのよ)とばかり自分の手を鍵盤にのせ手本を示した。
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