ざわつく室内。入口方面から足音が近付いてきて、昭子を始め気付いた多くの生徒達の注意はそちらに向く。
ドアは開けられ、先生の入室と同時にざわつきは引き潮の如くおさまる。
先生は手持ちしていた手帳を教卓の上に置くと、教室全体を一巡するかのようにぐるりと目配りし、大きめの声で「皆さん」と声を上げた。「お掃除きれいにできたんよね。ご苦労さん」
先生は再び手帳を手にし、何かを探すかのようにページをめくり、手をとめたかと思うと書かれた内容を目で追うかに見え頭を持ち上げ、明日の絵画の科目に絵の具を忘れないよう、また今日一日何か気がかりなことがあって聞いておかなければならないことなど、「無ければ……」と最後の挨拶で、生徒一同「今日一日先生お世話になりありがとうございました」と大声で交わし、各自下校の途につくこととなった。
一斉の下校。ごったがえす生徒たち。後ろから「ねー、ねー昭子ちゃん」……。
声をかけられ振り向けばA子。「うちに寄って帰らん」
予期していなかったA子の誘い、一瞬昭子は戸惑いを覚える。脳裏に浮かんだのは祖母の迎え顔。「でもおばあちゃんが……」と昭子は下を向き、「行きたいん……けどおばあちゃんが……心配する思うん」
「大丈夫、ちょっとだけだもん」A子は強引気味にすすめるのだった。しかし、昭子は母静子から、人さらいなど過剰と思える誤信話を聞かされていて子供心ながら祖母への気遣いなど別の日に立ち寄らせてもらうことを約束するのだった。
家族の了解を得、その都合から翌々日のことである。
二人は仲睦まじく楽しみな1日を過ごすことになる。