授業の終始サイレン。昭子は鉛筆描きのデッサンにとどめ置かねばならないことを無念におもいながらも教室へと向かう。教室入口すぐ右手、先生は教壇上に立ち、生徒たちの帰りを見守る。全員がそろったことを確かめると、「皆さん・・・・」と大きく「描きあげることができましたか」と声をあげ、教壇上の机の上に自分の手のひらを乗せ「描き上げた人はここに置いていってください。そうでない描き残している人は宿題として家に持って帰り、明日には仕上げてから持ってきてください。」
景色と自分の胸の内をミックスさせる抽象画。ませた表現を試みた昭子は一時も早く色塗り仕上げをしたい。とはやる気持ちから文具を片付けようと自席の机のひき出しを開け、あっと驚く。忘れてきたはずのなかった、それでいて先ほど探す時には見つからなかった絵具筆、ちゃんとあるではないか
やはり・・・・。誰かのいたずらだったことを先生に届け出ようとするが、とどめおく。
(あの彼に違いあるまい。)と確信はするのだが、証拠はない。
学級委員長のことにしろ、彼のことにしろ、昭子にとっての学園生活に困難がつきまとうことを予測できる現実であった。
合唱伴奏の選別対象者が学級委員長との二人でありながら、昭子が選ばれたことには、人知れず関心が持たれているようであった。
奇異な噂の浸透性とはあるもので、この昭子が選ばれた選考事象は奇異といえるほどの事柄ではなかったが、話題の俎上にあがっていた。各地域で年間を通していくつかのイベントとはあるものだが、昭子も話題が功を奏し、その中、昭子のピアノ演奏が組み込まれることになった。
それも何かの伴奏によるものではなく、ソロとして。