田園のソナタ(6)

顧みれば、音楽好きだった両親。その筋を引き、昭子がピアノを始めることになったきっかけはこうであった。

国粋意識を秘める父、文太夫。国家存亡の経済運営の源となる化石燃料入手をはばまれた日本としては、その入手を阻むアメリカに対戦を挑むことになり真珠湾攻撃、第二次世界大戦介入。その混乱の世に生を受けた昭子であったためか、父、文太夫にとって、昭子生誕につけ、気になることがあった。それは、彼女生誕のころを知りながら、日本男子として望むらく国家隆盛の一翼を担うべく占領外地で行われていた皇民化教育の一端を担うため、渡台したことであった。しかし無念にも敗戦となり、無事帰国できたはよかったが、帰途マラリアにかかり、希望の拠り所となっていた初愛娘、昭子にすぐには会ってやることが出来ない父親としての負い目、その気持ちもあって、オルガンを買い与える。一人っ子で祖母とだけで過ごす時が長い昭子にとって、オルガンは遊び道具として、友達のような、なくてはならない者のような存在となるのであった。
リヤカーに積まれ、持ちこまれたオルガン。「ごめんくださーい」…「お届けものですが」大きな呼び声である。文太夫からおおよその話しは聞かされていた静子であったが。はたして?「はーい今すぐに」と弾む気持ちを交え、玄関へと迎えでた。引き戸を開けると中年男性。目が合うなり深々と頭を下げ「この度は高価なオルガンをお買い上げ頂き有難う御座います」やはり!静子は喜びを交え迎えいれるしぐさをした。すると、男性はくるりと背を向け、その向こう玄関先道路の前、リヤカーのハンドルを持つ若者らしきほうへと向かった。

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