「ごめんくださーい。」
「はーい、少しお待ちくださいませ。」・・
その潤いのある声の返答に、母静子は頷くように昭子を顧みる。玄関前に佇む二人。中から微かな足音。近づき
「お待たせしました」と同時に引き戸が開けられ、顔を見合わせるなり静子は
「聖先生でいらっしゃいますでしょうか」と確かめるように見、聖先生は頷き静子は深々と頭を下げた。
「先日電話させていただきました杉谷ですが、子供を連れレッスンのお願いにまいりました」
と同意をもとめるしぐさを示す。聖先生は
『そうなんですか』と相槌を打たれ
「どうぞ中へ」と招きいれた。すると静子は、
「昭子、これからお世話になる先生ですよ、きちっとご挨拶なさい」
と、促す。昭子は緊張ながらも家族、大人に可愛がられてきた持ち前の笑みを浮かべ、
「よろしくお願いします」と可愛らしく、ちょこんと頭をさげる。
招き入れられ、ピアノの置かれたレッスン室にとうされる。流石に裕福なお家を思わせる部屋作りであった。