小説 合唱の伴奏 - その後(3) 2020年6月15日 授業の終始サイレン。昭子は鉛筆描きのデッサンにとどめ置かねばならないことを無念におもいながらも教室へと向かう。教室入口すぐ右手、先生は教壇上に立ち、生徒たちの帰りを見守る。全員がそろったことを確かめると、「皆さん・・・・」と大きく「描きあげることができましたか」と声をあげ、教壇上の机の上に自分の手のひらを乗せ「描き上げ...
小説 合唱の伴奏 - その後(2) 2020年6月1日 創立明治6年6月6日万福寺という寺の一隅に新築された校舎、第19番中学区第10番松江小学校。その後、20年4月松江尋常小学校と改称され、大正15年3月松江村字宮西656番地字藪下652番地に校舎新築移転。昭和16年4月松江国民学校と改称される。そして22年4月、再度松江小学校と校名を戻す改称、学級数14、児童数686名...
小説 合唱の伴奏 - その後(1) 2020年5月11日 月日は流れ、初秋の好天に恵まれた午後、図画の授業時間。 「皆さん、今日は天気もいいし、これから始める図画の授業は外に出て自分の見たいものを見、描きたいものを描く、そうするのがいいと思えるんでそうしましょうか?」 機転の利く担任G先生らしい発想であった。 「それでは、絵描きの準備をし、校内で、また校外に見られるなんでもい...
小説 合唱の伴奏(13) 2020年5月4日 「おばあちゃんはのう、自分が人からやってもらいたくないことは人にしてはいけん。B子にしたって同じ事じゃろう。そんでものう、B子はその人としての全うな考えはあっても、その気持ちを働かせる事が出来んくらい昭子のことが悔しくなって、その腹いせに自分の影響力が解っていて、その力を使って昭子を困らせてやろう、そうしたんと違うんか...
小説 合唱の伴奏(12) 2020年4月27日 合唱伴奏者選別に立候補することをすすめ、後押しをしてくれたA子、選ばれて、その時には喜び合ってくれた仲であったが、数日後彼女を含め数人がたむろしているところに昭子はいつものように顔をだす。 すると、ひとりふたり、となにげなく立ち去っていくものがあり、昭子はこれまでにない違和感をいだく。しかしこの時点ではこころあたりなど...
小説 合唱の伴奏(11) 2020年4月20日 演奏が終わり、ざわついている中、先生が声をあげる。 「皆さん」・・・とクラス全体を見渡し、「一生懸命弾いてくれた二人、甲乙つけがたい演奏だったと思うんですが、合唱曲は1曲、で、その伴奏者は一人、どうしてもどちらかにきめなければならんのよね。B子ちゃん、昭子ちゃん、先生が呼び上げるから、自分が弾いてもらいたい人の方に手...
小説 合唱の伴奏(10) 2020年2月17日 自分の思いと周りの反応にずれがおこることは珍しいことではないが、幼い昭子、その体験はすくなく、選別意識も加わり不安を抱くのだった。 注目の中、昭子は自席に、B子は教壇の上のピアノの前へと入れ替わり、みんな関心の最後の演奏が始まる。 B子は学級委員長という役柄上、人前で事をなすことに慣れているとは言え、さすがに緊張し...
小説 合唱の伴奏(9) 2020年2月3日 「それでは昭子ちゃん」先生の指示に、昭子は教壇の左横に置かれたピアノの前に弾く姿勢で腰かけた。昭子の見える位置に立つ先生、目線を交わし昭子は弾き始める。 ミファソーソ・ソーードと、一度の和声で始まるワルツ風のリズムを弾き始め、前奏の最後小節、オブリガート部を実に自然に、メロディを誘い出すに相応しい弾きこなしで終える。 ...
小説 24.合唱の伴奏(8) 2020年1月27日 またたく間の一週間。昭子にとって苦手な体操の授業が終わり、昼休みをはさんで気になる音楽授業の時間がやってきた。 音楽の授業ならいつも音楽室、という訳ではなく、しかし、今日は昭子とB子のピアノ演奏の弾き較べによる選別が行われる日である。学校にピアノといえば音楽室と講堂にしかなく、あえて音楽室での授業となるのであった。 昼...
小説 23.合唱の伴奏(7) 2020年1月20日 期間は一週間、中間部の連打、なんといっても52小節目の片手オクターブはちっちゃな手には音間が離れて広過ぎ、それでいて32分音符と続く早いパッセージは、昭子にとっては弾きこなすに難関な部分であった。 これまで、他の人がピアノを弾くのを気にしたことはない昭子であったが、成り行き上とはいえ、“自分の得意とする曲”、B子が何の...
小説 22.合唱の伴奏(6) 2020年1月13日 これまで一人娘で自分のしたいことだけに専念し、どちらかといえば他のことについてはのほほんと見過ごしてきた昭子であったが、同級生との比較、それも学級委員長との比較とあって、眠っていた競争心が今さらのように呼び覚まされてくる昭子であった。 「おばあちゃん、今度ある学習発表会、私たち『みかんの花咲く丘』の合唱をすることになっ...
小説 21.合唱の伴奏(5) 2019年12月23日 秋の文化行事、学習発表会が行われるにあたって昭子のクラスでは歌、先生としては伴奏をしながらの指導の手間、難しさよりも実際伴奏を含め全て生徒が行わなければならないこととして、ピアノ伴奏ができる者を募ることになった。 小学1年のときから仲良しになっていたA子は、昭子が家ではオルガンを弾き、X年生になった今日、ピアノレッスン...