小説 12.レッスン 2019年9月2日 待ち遠しかった初回のレッスン。 昭子の両親が勤め人であり、遠方からの通いであることを考慮され、 土曜日午後3時半からのレッスン時間をやりくりされたせい先生。 我流であったとはいえ、先週昭子の弾くピアノを聞き、密かな期待をこめられてのことであった。 せい先生の母、あの先週の老婦人に案内され、入室した静子に昭子。 「お世話...
小説 11.バイエル・メトードローズ(2) 2019年8月26日 まずはバイエル。好きと、母の手ほどきで楽譜をある程度読み取れるようになっていた昭子。 その見る目に『えっ、こんな』と、予想外な表情。 彼女が期待していたピアノ指導教材それだけの内容を読み取ることができない。 バイエルについて、最初の気負いは無くなり、これはと、メトードローズを見開く。 バイエルよりは自分の音楽的嗜好性に...
小説 10.イエル・メトードローズ 2019年8月19日 この当時の事を振り返り杉谷昭子女史が言うに、 音が出て、音階があってその幅は広く、和音が出せる。 生まれつき音楽好きだった自身にとって、オルガンは最高のオモチャであり、 行き届いてはいなかったとは言え、母との長い間の音遊び、ピアニストとしての表現の自由さ、 豊かさを身に付けるにあたって、無くてはならなかった源泉期、と述...
小説 9.グランドピアノ 2019年8月12日 昭子は自分の事でありながら、談話は二人の蚊帳の外に置かれていることを見てとり、 そっと部屋の中を見渡す。何よりも目の前のグランドピアノ。 初めて見るその大きさといい、真っ黒な色といい、自分がこれまで慣れ親しんできたオルガンとは あまりにもの違いに異様さを抱く。しかし“触ってみたい”、その昭子の好奇心を、 せい先生は見取...
お知らせ 夏季休暇のお知らせ 2019年8月9日 平素は格別のご愛顧を賜り、厚く御礼申し上げます。 誠に勝手ながら、 8月10日(土)から15日(木)を 夏季休暇とさせていただきます。 ご不便をお掛け致しますが、何卒ご理解の程お願い申し上げます。...
小説 8.1950年(2) 2019年8月5日 「ごめんくださーい…。」返答を待つかのように聞き耳を立て、間をおき、再び呼びかける。 奥の方から、ピアノ音楽と重なり、か弱そうな女性の声。 「はーい、すぐに参ります。」わずかな間合いの後、戸の裏に人の気配があって、開けられたかと思うと、 品の良い年配婦人が現れた。 「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。」 上品な物...
小説 7.1950年 2019年7月29日 月日は流れ、父文太夫と母静子は、教職に追われ、昼間は留守。祖母に預けられた昭子、かわ ゆいばかりで気ままに育ち、生まれつきもあってか自立心の強い子として育つ。 音楽好きな両親。昭子もその血筋を引き継ぎ、ペダルに足が届くようになると、めちゃ弾きにの めり込んでゆく。 譜面上でのドレミ、鍵盤上でのその位置、それくらいは母親...
小説 6.オルガン(2) 2019年7月22日 遠のいていくはずの車がスピードを落とし、エンジンの鈍くなる音と共に杉谷家の前で停まった。 干し始めて間もなくのこと、静子がブラウスの袖に干し竿を通そうとしているその時のこと。近付 く足音がパタッと停まったかと思う男性の大きな呼び声。 「ごめんくださ~い。杉谷さ~ん。」予測していた静子は(来た)とばかり「はーい、すぐに」...
ブログ 新取り扱いピアノのご紹介 2019年7月19日 新しく取り扱いをさせていただくことになった ピアノをご紹介させて頂きます。 【ヴィンテージピアノ スタインウェイ S-155 】 スタインウェイのピアノの中で奥行きが155cmと 一番コンパクトなピアノです。 小型サイズとはいえ、 スタインウェイの豊かな響き・音色は 充分に感じて頂けるピアノです。 ピアノの設置場所にお...
小説 5.オルガン 2019年7月15日 まだ見ぬ愛娘への初顔合わせ、楽しみに帰航上の人となるのだが、彼は蚊に刺されマラリアに かかり帰国と同時に隔離病棟に匿われることとなる。胸膨らませ、しかしすぐには会えない不憫さ から、音楽好きな彼は自分の思いを託し、昭子にオルガンをプレゼントする。このことが後、彼女 をピアニストへと導く大きな要因となるのだが、ピアノを初...
小説 4.1945年 2019年7月8日 昭子生誕の地、榎原も新日鉄住金和歌山製鉄所近隣に位置し、激しい空爆の余波を受ける。 1945年7月9日、21時過ぎ、ウーッ、ウーッ、...。途切れては鳴るその警報音。 寝つきにむずかる昭子をあやす母静子の胸にハッと不安が過る。近日何回となく体感していた 警報音。静子は恐怖におののく。防空壕に身を隠す下準備が脳裏をかすめ...
小説 3.1943年(2) 2019年7月1日 祖母はハッと頭を持ち上げ、立ち上がり急いで玄関へと向かった。 「いらっしゃいませ。お医者様でいらっしゃいますよね」 「ええ、そうですが、途中軍隊とはちあわせ、少し遅れてますかね」 「お待ちしておりました。さっ、お上がり下さいませ」 速やかに産室に招き入れる。 彼は状態を把握し、祖母に言う。「難しそうですね……」と。しか...